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香港の法律・生活法務ガイド

香港はイギリス法の伝統を受け継いだコモンロー(慣習法)体系を採用しており、日本の民法・労働法とは根本的に異なります。日本人居住者として自身の権利を守るために、主要な法律制度と紛争解決手続きを把握しておくことが重要です。


1. 香港の法律体系:コモンローと日本法の違い

比較項目 香港(コモンロー) 日本(大陸法)
法源 判例法が主;制定法が補完 成文法典が主体
司法独立 行政機関から独立 三権分立(日本国憲法)
契約の取り扱い 書面条項を極めて重視 書面+慣行・信義則を考慮
言語 英語・中国語が同等の法的効力 日本語
陪審制度 重大刑事事件で適用 裁判員制度(一部)

実務上の重要点:香港では雇用契約・賃貸契約の書面条項が法的拘束力を持ちます。「口頭での約束」は立証が困難で、法的保護を受けにくいです。契約書は必ず精読し、不明な条項は署名前に確認してください。


2. 雇用条例(Employment Ordinance)の主要規定

香港雇用条例は労働者の基本的権利を定める中核的法律です。

項目 法定基準 備考
試用期間 通常1〜3ヶ月(契約で明示) 試用期間中は短い通知期間で解雇可能な場合が多い
有給休暇 継続雇用1年後から最低7日;最大14日まで逓増 契約でより多い日数を定めることは可
法定祝日 年12日(元旦・旧正月等) 公衆假期(17日)と異なる;契約書でどちらか確認
産休 14週(継続雇用40週以上で産休給与支給) 2020年に14週に延長
配偶者育児休暇 5日(継続雇用40週以上) 父親(パートナー)の権利
解雇補償金 継続雇用2年以上:勤続1年につき月給2/3相当 解雇手当と長期サービス金は同時受給不可
MPF拠出 雇用主・従業員各5%(月給ベース) 月給HKD 7,100未満は従業員拠出免除
解雇通知期間 契約で定めた期間(最低1ヶ月が一般的) 即時解雇の場合は「代通知金」支払いが必要

注意:高給を理由に雇用契約書を省略することは違法です。すべての雇用主は従業員に書面での雇用条件の通知書を提供する義務があります。


3. テナント権利の現状

香港では旧「家主と借家人条例」のテナント保護条項(地代規制等)はすでに廃止されており、現在の賃貸市場は市場原理に基づいています。

テナントの基本的権利

敷金(Deposit)の取り扱い


4. 家主との紛争解決フロー

Step 1: 書面での交渉(WhatsApp・メールで証拠を残す)
    ↓ 解決しない場合
Step 2: 仲裁センター(Hong Kong Mediation Centre)の調停(任意)
    ↓ 解決しない場合
Step 3: 小額訴訟法院(HKD 75,000以下の請求)または区域法院
    ↓ 必要な場合
Step 4: 弁護士による法的手続き

5. 労働審判所(Labour Tribunal)への申し立て

労使紛争は労働審判所で迅速・低コストに解決できます。

申し立て前のステップ

  1. 労働局(Labour Department)に電話(2815 2200)または直接訪問
  2. 調停(無料)の申込み → 大多数の案件は調停段階で解決
  3. 調停不成立の場合に限り審判所への申し立てに進む

労働審判所の特徴

緊急の賃金未払い:雇用主による賃金未払いは刑事犯罪です。調停を経ずに労働局への直接申告(執法)が可能です。


6. 小額訴訟法院(Small Claims Tribunal)

民事上の金銭紛争(HKD 75,000以下)に利用できます。

項目 内容
申請上限額 HKD 75,000
弁護士 原則不要(代理人禁止が原則)
申請費用 約HKD 180〜
手続き言語 英語・中国語
典型的な案件 敷金返還・家財紛争・少額の貸金・消費者トラブル

申請書類はHKD裁判所(High Court)ビルのGround Floorにある案内窓口で入手できます。また、HKコートウェブサイト(judiciary.hk)からダウンロードも可能です。


7. 日本語対応の法律サービスと無料法律相談

機関 提供サービス 費用 連絡先
法律援助署(Legal Aid Department) 民事・刑事訴訟の法的代理 資産審査に基づき免除または一部負担 2537 7677
香港律師会 義務律師服務 30分間の無料法律相談 無料 律師会公式サイトで予約
香港大学法律援助診所 民事法律相談 無料 香港大学法学部
社區法網(香港律師会) オンライン法律情報 無料 communilegal.hk

日本語対応弁護士:香港にはいくつかの日本人弁護士事務所(日系法律事務所の現地オフィス)があります。Andrews Kurth、Mori Hamada(東京事務所の紹介)、香港日本法律グループ等。雇用・ビザ・不動産関連の相談が主な取り扱い分野です。


8. 緊急時・犯罪被害時の手続き

警察(緊急):999(日本の110番に相当) 警察(非緊急):2527 7177

犯罪被害を受けた場合

  1. 最寄りの警察署(Police Station)に出頭または電話で届け出る
  2. 被害届(Report)の番号を必ず受け取る(保険請求等に必要)
  3. 証拠(写真・領収書・通信記録)はすべて保存する

法律援助署への緊急申請:重大な刑事事件で弁護士費用が払えない場合、法律援助署に緊急申請できます。

在香港日本国総領事館(緊急連絡先):+852 2522 1184


よくある質問

Q: 会社に突然解雇されました。補償金はどのくらい受け取れますか? 継続雇用2年以上の場合、勤続年数1年あたり月給の2/3相当の解雇補償(遣散費)を受け取れます。2年未満は法定遣散費の権利はありませんが、雇用契約で定めた通知期間分の賃金(または代通知金)は必ず支払われます。不当解雇(Wrongful Dismissal)の場合は別途労働審判所で追加補償を請求できます。

Q: 家賃を支払い続けているのに家主が修繕を拒否します。どうすれば? 賃貸契約書で家主の修繕義務が定められている場合、書面で修繕要求を送付し記録を残します。家主が応じない場合は建屋署(Buildings Department)への苦情申告、または区域法院への申立てが可能です。家賃の支払い停止は法的リスクが高いため、必ず法律専門家に相談してから行ってください。

Q: ビザが切れる前に転職した場合、法的に問題はありますか? 就労ビザは特定の雇用主に紐付いています。転職時は入境事務処(Immigration Department)に新雇用主への変更申請を行う必要があります。前雇用主のビザで別会社に勤務することは不法就労となります。


データは2026年4月時点。法律は随時改正されますので、最新情報は香港政府公式サイトをご確認ください。本文は一般情報の提供を目的とし、個別の法律アドバイスを構成するものではありません。具体的な案件は香港登録弁護士にご相談ください。